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近年、わが国のサービス経済化は大幅に進み、サービスを提供する企業とサービス業の就業人口も増加しています。企業が自社の製品とサービスに付加価値を付けるために、重要となることが、従業員によるサービスの提供です。そして顧客にサービスを提供する際に、欠かせないものが従業員の「感情労働」です。感情労働とは、肉体労働や頭脳労働とは異なり、主に対人サービス従業員が顧客にサービスを提供する際に、企業が規制するガイドラインに従い、自分本来の感情をコントロールして、適切な対応する労働形態を指します。 感情労働は、社会学者のホックシールドが1983年に出版した著書『管理される心: 感情が商品となるとき』のなかで、客室乗務員の感情労働の分析をして以来、注目を集めるようになりました。

感情労働を必要とする職場は増加傾向にあります。感情労働は、以前は例えば、客室乗務員、看護師、販売員、受付職員、レジのキャッシャーなどの対人サービス従業員が実践することが知られていました。しかし近年は、どのような職業であっても、顧客や同僚とコミュニケーションをする場合は、欠かせないものと考えられます。例えば、コールセンターに勤務するオペレーターにも、電話の向こう側にいる見えない顧客に対して、自分の感情をコントロールして、誠実に対応することが求められています。

岡部倫子氏は、フランスで航空MBAを、日本で博士を取得した経験を活かし、サービス企業と従業員の感情労働の研究を行っています。氏によると、サービス従業員が感情労働を行う目的は、企業の感情規制に従おうとすることです。感情規制とは、一般的に雇用契約には記載されませんが、社員教育などで示されます。会社は従業員に、会社にとって望ましい感情を顧客や同僚に表現するようにと、感情規制を示します。例えば、会社の研修や勉強会などを通して、顧客には明るく親切な行動とることを学んだ従業員は多いでしょう。他方で、顧客にサービスを提供する職業は、人間の感情というコストを消耗するため、従業員は感情のストレスを蓄積しやすく、従業員が自分の本当の感情を感じられなくなる「感情の枯渇」におちいるリスクがあります。リスクはそればかりではなく、従業員のバーンアウト (燃え尽き症候群) と、離職の可能性があることを、氏は述べています。

岡部氏は、顧客に対応する際に「アフェクティブ・デリバリー」を用いることの効果を述べています。アフェクティブ・デリバリーとは、従業員が顧客対応の際に、ポジティブな表現を意識的に用いることで、顧客の満足度を向上させる対応を指します。氏は、客室乗務員の職場におけるフィールド・ワークとアンケート調査から、アフェクティブ・デリバリーを多く用いる従業員は、サービス従業員が感じやすい感情のストレスや感情の枯渇を、最小限にとどめる効果があることを実証しています。ストレスと無縁な職場はないかもしれませんが、感情労働を実践する従業員が、感情の緊張を感じる状態が続くことは、従業員とっても企業にとっても望ましい状態ではありません。サービスを提供する企業と従業員は、アフェクティブ・デリバリーの活用を一考する価値があるでしょう。

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